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下垂体腺腫
概要
下垂体腺腫はホルモン産生つまり内分泌に関わる下垂体と呼ばれる器官のなかで、その前葉と呼ばれる部分から発生する腫瘍です。成人(20歳から50歳)に多く、3番目に多い脳腫瘍です。殆どが良性であり、悪性のものはごく稀です。
一般的にホルモンを産生せず、大きくなって視力視野の障害を呈するものと、ホルモンを産生してホルモン分泌異常による症状をきたすものの2通りがあります。
症状
症状は産生するホルモン分泌異常によるものと、腫瘍による局所圧迫症状があります。全ての腫瘍型に一致して、腫瘍が大きくなると、視神経の中で視力・視野に関わる視交叉という部分を下方から圧迫するため、両耳側半盲(両目とも外側の視野が欠けてしまう)を特徴とする視野障害が特徴的です。また頭痛も頻度の多い症状の一つです。
下垂体腺腫を赤矢印、下方から腫瘍に圧迫された視交叉を黄矢印で示す
また、ホルモン分泌異常に伴う症状には、以下のようなものがあります。
- 非機能性下垂体腺腫:腫瘍圧迫に伴う視野障害が中心です。
- 成長ホルモン産生腺腫:巨人症(子どもの場合)、先端巨大症(成人の場合で顔貌の変化、手足のサイズが大きくなる、高血圧・糖尿病がおこる)をきたします。
- 甲状腺刺激ホルモン産生腺腫:動悸、体重減少、発汗過多、甲状腺腫などがおこります。
- プロラクチン産生腺腫:妊娠していないのに乳汁分泌、無月経などがおこります。
- 副腎皮質刺激ホルモン産生腺腫:満月様顔貌、中心性肥満、高血圧症、多毛、色素沈着などがおこります。
- 性腺刺激ホルモン:自覚症状は少ないのですが、性腺機能の低下がおこります。
検査
頭部CTやMRIにて診断がつきます。またホルモン検査や、眼科での視力・視野検査が必要になります。
CT
通常は脳実質と等吸収域を示しますが、嚢胞成分が多くなると低吸収域となることがあります。また腫瘍内に出血をきたすと下垂体卒中と呼ばれ、急激な視力の低下や激しい頭痛を伴います。血腫に一致して高信号域を認めます。
MRI
MRIは診断に最も有効な画像診断です。造影剤を用いることで腫瘍の伸展範囲や正常構造との境界が明瞭となります。非常に小さい下垂体腫瘍の診断にも造影MRIが有効であり、強く増強される正常下垂体に対して腫瘍部では低信号域となります。
手術の方法とその特徴
ハーディの手術と呼ばれ、鼻から下垂体に向かってアプローチする方法が取られることが一般的です。頭の骨を開けて行う方法は特殊な場合にしか行われません。
鼻の粘膜を切開・剥離し、鼻腔の奥にある骨に小さな骨窓をあけます。その窓の奥に、脳を覆う硬膜があるので、これを切開すると、下垂体腺腫が出てきます。下垂体腺腫は、一般的に柔らかい腫瘍なので、この下垂体腺腫を掻き出します。まれに、硬い腫瘍の時もありますが、この場合は安全に切除できる範囲で切除します。
腫瘍を切除した部分から髄液鼻漏を起こさないように腹部の皮下脂肪を切除腔に詰めます。このため、腹部に2から3センチメートルほどの切開が必要になります。3時間程度の手術になります。
手術中の髄液の流出が多い患者さんでは、手術後に背中(腰)から、持続的に髄液を体外に流すチューブを留置します。その間、ベッド上安静が必要です。
腫瘍を除去する操作で、下垂体周囲にある重要な構造を傷つける危険があると判断した場合は、無理に除去を行わず手術を終了します。(残った腫瘍に、再手術を行ったり、後述の薬物治療や放射線治療を行うことが一般的です。)
一般的には手術により術前の視力・視野障害が80パーセントで改善すると言われています。
最近では内視鏡を用いた手術も行われるようになってきていますが、手術の方法自体にはあまり変わりはありません。
手術に伴う危険と合併症
- 尿崩症(にょうほうしょう):尿量の調節ができなくなり、尿が大量に出ます。注射や点鼻薬で調節します。半数以上の患者さんにこの症状が出現しますが、ほとんどが一過性です。
- 髄液鼻漏(ずいえきびろう):鼻の奥の手術の創から脳脊髄液(髄液と呼びます)が漏れることです。髄液鼻漏が遷延すると、細菌が脳脊髄液の中に侵入し、髄膜炎や脳炎を引き起こし、麻痺や寝たきりなどの重篤な後遺症につながる恐れがあります。背中(腰)からチューブを入れて、髄液を持続的に体外に流して、髄液漏れを起こしている創がふさがるのを待ちます。
- 感染(髄膜炎)などが起る場合があります。
- 正常下垂体に損傷が加わることで下垂体機能低下症を生じることがあります。この際はホルモン量低下を補うために人工のホルモン製剤を長期にわたって内服する必要があります。遅発性のものも含める80から93パーセントで一過性例を含め生じると言われています。
- 下垂体近位を走行する内頚動脈を損傷してしまうこともあります。
- 視神経を障害し、術後に視野障害を後遺することがあります。
- 全身麻酔に伴う合併症(肺炎やエコノミー症候群など、詳細は麻酔担当医から説明します)。
術後の見通し
手術後5日間、鼻にガーゼを詰めたままにしておきます。手術後7日間で、尿崩症や髄液鼻漏などの合併症が無ければ、10日から14日で退院できます。下垂体腺腫の診断は、手術で切除した腫瘍組織に各種の染色を行い、顕微鏡で観察した上で確定されます。場合によってはホルモンの補充療法や薬物治療を継続する必要があります。
可能な別の治療
ガンマナイフ(放射線治療)
腫瘍の増大やホルモンの分泌を抑制する効果があります。しかし、大きな腫瘍の場合や、比較的小さくても眼の神経に近い場合は、十分な放射線量を腫瘍に照射できません。
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薬物治療
ホルモンの値の調節として、内科や婦人科では優先されることが多い治療です。服用により腫瘍は縮小し、ホルモン値も改善しますが、投与初期には嘔気、めまい等の副作用があること、投与を中止すると腫瘍が再増大すること、薬物の効果がない腫瘍があるなどの問題があります。 プロラクチン産生腫瘍は薬物療法(カベルゴリン、ブロモクリプチンなど)が有効です。
当センターでの治療成績
当センターでの2011年までの治療成績は以下の通りです。
- 秋田県立循環器・脳脊髄センターの治療成績(1998年から2011年1月)
- 手術件数:49例
- 尿崩症:3例(1例は一過性、2例は点鼻薬継続)
- 下垂体前葉機能低下:3例(2例は一過性、1例はホルモン剤内服継続)
- 術後出血:2例(1例は経過観察、1例は緊急血腫除去術後も視力・視野障害後遺)
- 髄液鼻漏:2例(2例とも髄液鼻漏で再手術を施行し、後遺症なく退院)
- 腹部創部出血:1例
- 手術死亡:0例