診療案内
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麻酔科診療部
麻酔について
手術には小手術がありますが、麻酔には小麻酔はありません。ちょっと麻酔をかけるということはできないのです。どんな手術の麻酔でも、いったん全身麻酔がはじまりますと、予測のできない合併症がおきることがあります。回復不可能なことも10万例に1例はあります。私たちは最善の努力を尽くしてして患者さんの安全をお守りします。
麻酔に影響を与えるもの
今までにかかったことのある病気、今飲んでいる、または飲んでいたことのあるお薬を教えてください。また、今まで手術や麻酔を受けられたことのある方はその時の状況を教えてください。血の繋がりのある方の中で、手術や麻酔で、高熱、ショックなどの危険な状態になった方がいらっしゃいますか? 下記の疾患、薬は、全身麻酔を行う時、患者さんの安全を保つために大変重要です。 既往歴: 高血圧、喘息、心臓病、脳卒中、腎臓病、肝臓病、糖尿病、薬物アレルギー、食物アレルギー(じんましんなど)、甲状腺疾患、神経精神病等 服薬歴:降圧剤、強心薬、副腎皮質ホルモン、インスリン、抗凝固薬、睡眠鎮静剤、抗痙攣剤等、漢方薬、ハーブ、ビタミン剤など飲んでいらっしゃる方もお知らせください。
神経麻酔について
諸外国では脳外科手術専門の麻酔科医を神経麻酔科医と言いますが、日本ではまだ専門科しておりません。手術対象の脳は、人間性のもと、意識のもとそのものですので手術操作が加わっただけで、意識、人格に影響を与えます。神経麻酔の特殊性は、その障害をいかに最小限におさえ、安全に手術を行うかにあります。
関連内容:緊急手術
麻酔科における新しい試み
自己血輸血
手術に輸血はつきものといった時代は終わりました。輸血は臓器移植の一つです。AIDS、肝炎などの感染症の危険性から、できるだけ輸血をしないようになってまいりました。麻酔科では、希釈式自己血輸血を行っております。これは麻酔がかかってから採血し、手術が始まるまでに補液で補充し、血液を薄めておき、手術時の出血を実際より少なくする方法です。採血量に限度があるのでこれだけですべてをまかなうことはできませんが、輸血を避けることができます。
関連内容:自己血輸血
覚醒の質
手術を受けると、麻酔がさめた後、痛み、嘔気、嘔吐、悪寒があります。この原因は、手術操作によるものと、麻酔薬によるものとがあります。ガス麻酔を受けられた方の多くはこのような経験をされたと思います。現在は新しい静脈内麻酔剤が使えるようになりました。この薬は脳保護作用があり、覚醒も早く、覚醒時の不快感がないため脳外科手術には理想的といわれております。しかし、鎮痛作用がないため、鎮痛薬をしっかり使う必要があります。手術の終了を見計らい、麻酔を止めます。手術室でしっかりと目がさめ、痛みもないため、「もう終わったんですか?」とびっくりされる方もいらっしゃいます。この静脈内麻酔剤が使えるようになり、覚醒の質が向上しました。
関連内容:手術後の痛み
環境汚染
麻酔ガスとして使われる笑気ガスは、麻酔の時使われると、そのまま余剰ガスとして大気に出されています。車の排気ガスと同じです。笑気は1997年の地球温暖化防止会議で、温室効果ガスとして3番目にあげられています。自然界では分解されにくく、温室効果は二酸化炭素の約100倍です。医療用に使われる笑気は、工業的に生産される亜酸化窒素の20%以下で、全身麻酔で使われるものはその数%にすぎません。麻酔科医はこれを減らそうと努力しております。静脈内麻酔のみ、または、低流量麻酔(麻酔ガスは必要最低限使う)という試みで、笑気の年間使用量は10年前に比べるとかなり少なくなっております。環境に優しい、つまり、人間に優しい麻酔を行っております。
麻酔科の仕事
「できものは消えたけど痛くて夜も眠れません。下着が触れただけでも痛いです」
俗に“つづらご”と呼ばれる帯状疱疹(ほうしん)の痛みは、地獄の責め苦に例えられるほど強いものです。皮疹は一ケ月もすれば治りますが、その後も強い痛みが残り、「帯状疱疹後神経痛」になってしまう人がいます。
帯状疱疹はウイルスが原因ですので、発症して間もない急性期には抗ウイルス剤を投与します。痛みに対しては鎮痛剤投与、神経ブロック(痛い部分の神経に局所麻酔剤を注射し、痛みを取る方法)が行なわれます。皮疹が出て痛みも激しい初期の段階から神経ブロックを始めますと「帯状疱疹後神経痛」にならずに済みます。あちこちの病院を回り、やっとペインクリニック(痛みの外来)にたどりついた患者さんをみると、もう少し早く来てくれていたら、と思わずにはいられません。
急性期は鎮痛剤を使っても眠れないほど痛むので、神経ブロックが効果的です。痛みで眠れなかったり、食欲がなくなったりすると、精神的にも参ってしまいます。神経ブロックをすると痛みが取れ、血の流れがよくなるので、回復も早まります。
発症してから半年以上たって痛みがひどい場合には、神経ブロック、レーザー、薬をイオン化して浸透を早めるイオントフォレーシス、薬物療法などを組み合わせて治療しています。
どうあがいたところで、人間はいずれ死ぬ運命にあります。生きている間は最後まで痛みのない人間らしい生活をしたいものです。原因は何であれ、痛みで苦しんでいる人は、あきらめずにペインクリニックのドアをたたいてください。
(残念ですが、現在(2020年6月)当センターでは、ペインクリニック外来は行っておりません)
麻酔科医は手術のとき患者さんを眠らせ、痛みを取り、人工呼吸をし、血圧をコントロールする専門家です。また、呼吸や心臓が止まったりしたときの蘇生(そせい)など、生きるか死ぬかの重症患者を管理する専門家でもあります。手術時の麻酔のみならず集中治療室での重症患者の管理、救急医療、ペインクリニックも担当しているのです。
全身麻酔
先日“大病人”という映画を見ました。手術室では青い服を着た医者や看護婦がたくさんの医療機器に囲まれ、忙しそうに動き回っています。患者さんは胃を切り取られましたが、ぐっすり寝ているようです。口には何かをくわえ、しっかりとばんそうこうで止められています。白いマスクをつけ、患者さんの頭のところで黒いバッグを押しているのが私たち麻酔科医です。
最近の映画、テレビの映像はリアルになり、実際の手術の映像を使用しているものも多くなりました。この患者さんは全身麻酔がかけられているようですが、いったいどういう状態なのでしょうか。
寝ているのは確かですが、夜、私たちが眠っているときの状態とは違います。眠っているときと同じ状態で皮膚を切ると、痛みで目が覚めてしまいます。それだけでなく血圧が上がり、脈が速くなって筋肉が緊張します。これでは手術することができないため、いろいろな薬を用いてこうした体の反応を抑えるのです。
例えば、おなかの手術をする場合、筋肉がこわばっているとスムーズに手術することができませんので、筋肉を柔らかくする筋弛緩(しかん)剤を使います。すると、呼吸をするための筋肉も柔らかくなって、自分の力で呼吸することができなくなります。このため、気管の中にチューブを入れ、そこから麻酔ガスを送り込んで呼吸をさせなければなりません。全身麻酔の後、のどが痛かったり、痰(たん)が多くなったりすることがあるのはこのせいです。気管の中にご飯が一粒入っても苦しいですし、おなかを切れば跳び上がるほど痛いのは当然。だから、しっかりと深い麻酔をかけます。
ただ、切られるととても痛いところとそれほど痛くないところがあるので、血圧や脈拍などを見ながら、切る場所によって麻酔薬の量をこまめに調節する必要があります。皮膚を切るときと違って、脳を切っているときはそれほど痛みはないので麻酔は浅くします。また、出血量を抑えるために薬を使って血圧を下げたり、しっかりと止血されているかどうかを確認するために血圧を上げたりすることも麻酔科医の役目です。
全身麻酔をかけられた患者さんは、手術中のことを何も覚えていませんが、私たち麻酔科医は手術を受けている患者さんのそばでこうしたことをしているのです。
緊急手術
土曜日の午後、ゆったりとした気分でお茶を立てて飲んでいました。そのつかの間の静寂はポケットベルの音で破られました。「クモ膜下出血の患者さんが入りました。手術になります。」
秋田県立循環器・脳脊髄センター(秋田市)は脳卒中の専門病院です。かつて本県は脳卒中が多いことで知られていました。センター開設当時は、毎日のようにクモ膜下出血や脳出血の患者さんが運び込まれていたそうです。今では県内に脳外科施設が増えたため、以前より緊急手術は少なくなっています。しかし、治療は一刻を争います。手術を要する緊急の患者さんが救急車で運び込まれると、夜中であろうと日曜日であろうと、手術に携わる医師や看護師、各種の検査を行う検査技師など少なくとも13人に召集がかかり、治療が行われます。これだけのスタッフがいつでもすぐに集まる態勢がとられているのは、脳卒中専門の医療機関ならではのことです。
ある医学書に、「クモ膜下出血の発作直後に呼吸が止ったりした場合はとても重症。植物状態になる人が多く、手術はできない」と書いてありました。
しかしこんなケースもあります。私がセンターに赴任したのは脳卒中が多発する厳寒の二月でした。毎日のように緊急手術が続いたある日、脳外科の医師から「クモ膜下出血の患者さんが入りましたが、呼吸が止ったため手術はしません。」という連絡がありました。
その二時間後には「治療に反応し、自発呼吸と反射がでてきました。年令も若く回復する可能性があります。すぐ手術をします」という連絡が入り、緊急手術が行われました。この患者さんは麻痺(まひ)も残らず無事に退院しました。
発作で脳がひどく障害を受けたり、脳卒中発症後、発見されるまで時間がかかったりした患者さんは、手術を受けても寝たきりになる可能性が高いのは確かです。しかし、中にはこの若い患者さんのように普通に社会生活ができる程度まで回復する人がいることを知りました。「どんな場合もあきらめてはいけない」とつくづく考えさせられました。
自己血輸血
「私は輸血を受けたくありません。」宗教上の理由などはなくても、輸血を拒否する人が増えてきました。輸血による感染症や合併症が問題になっているのが、その一つの理由です。輸血用の血液は多くの人々の善意の贈り物である献血で確保されており、そのおかげで多くの人の命が救われています。しかし、献血時の検査ではチェックできない感染症や合併症があります。そこで、手術時の輸血に患者本人の血液を使う方法がとられるようになってきました。「自己血輸血」と言い、三つの方法があります。
一つは貯血式。これは元気なときにあらかじめ採血し、保存しておく方法です。何回かに分けて採血し、手術予定日までに必要な分量の輸血用血液を準備します。血液は保存可能な期間が限られていますので、手術はその期限内に行います。
もう一つは希釈式。麻酔をかけた手術前の段階で採血し、採血したのと同じ量の点滴をして体内の血液を薄めた状態にしておく方法です。そうすることで、手術に伴う血液量を抑えることができるわけです。手術前に採血した血液は、手術が終わるときに再び体内に戻します。この方法は麻酔がかかった状態で行ないますので、痛い思いをせずに済みますが、採血できる量は限られます。
また回収式という方法は、手術のときに出た血液を集めてきれいにし、その血液を輸血するもので、主に心臓や大血管など大量の出血を伴う手術で使われます。
実際には、これらの方法を組み合わせ、それぞれの患者さんの手術内容、病状に最も適した方法で輸血が行なわれます。
最近は、県内でも「自己血輸血」で手術を行なう医療機関が増えてきました。もし手術をすることになり、「輸血が必要かもしれません」と言われたら「自己血輸血で手術を受けたいのですが」と、主治医に相談してみてください。
ただ、貧血がある人、具合が悪い人などは「自己血輸血」ができないこともあります。それでも、どうしても輸血を受けなければいけないときは、献血してくださった方に感謝して受けたいものです。
手術後の痛み
「手術の時、痛くないでしょうね」「ちゃんと覚めるでしょうか」「麻酔をかけると“ばか”になりませんか」
手術を控えた患者さんから、よく麻酔に関する質問をされます。以前は「手術は体を切るのだから痛いのは当たり前。我慢しなければいけない」と言われていました。しかし、何も分からないうちに手術が終わり、麻酔が覚めた後も痛くない方がいいに決まっています。
「手術後の数日間はベットで安静にしていなければならない」というのは昔の話です。頭の手術をうけた患者さんが翌日にはベッドから起きて一人でご飯を食べているということもあります。できるだけ早くベットから起きたほうが、回復が早いことが分かってきました。痛くなければ、自分で咳(せき)をして痰(たん)を出すことができるので、術後肺炎の予防にもなります。
最近は、手術後の痛みは積極的に取るようになりました。首から下の手術の場合、前もって背中に細いチューブを入れ、いつでもそこから局所麻酔剤を入れることができるようにしておき、痛みをとる方法もあります。筋肉注射の痛み止めは全身に効くので眠くなりますが、局所麻酔だと必要な所だけ痛みをとることができるので眠くなったりしません。痛みをとるため、そのたびに痛い思いをさせて注射をせずに済みます。「手術を受けたのだから痛いのは当然」と、我慢することはないのです。
どんな薬でも多かれ少なかれ副作用があります。麻酔薬も例外ではありませんが、多くの場合、問題はありません。麻酔薬の効果が切れると、薬を使う前と同じ状態になります。手術が終わるころ、タイミングを見計らって麻酔薬の投与をやめます。麻酔薬は役目を終えると、尿や呼気に混じって体外に出るので麻酔から覚めるのです。覚めなかったり、“ばか”になったりすることはありません。
腎臓(じんぞう)や肝臓が悪かったりすると、薬がなかなか体の外へ出ていかず、覚めるのが遅くなることがあります。また、手術後、安静にしている方がいい場合には、しばらく麻酔をかけたままにしておくこともあります。
手術の前はだれでも不安なものです。心配なことがあったら遠慮なく麻酔科医、主治医、看護師に相談してください。
スタッフ紹介
第一麻酔科診療部
西野 京子(部長)
専門医資格
- 日本麻酔科学会指導医・専門医
- 日本救急医学会救急科専門医
- 日本医師会認定産業医
- 日本ペインクリニック学会暫定専門医
- ICD認定
専門領域
- 脳神経外科麻酔
- 医療ガス
第二麻酔科診療部
酒井 彰(部長)
専門医資格
- 麻酔科専門医
専門領域
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