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脳血管内治療

脳血管内治療について

脳神経外科領域において近年世界的に普及されている治療法の一つです。主に大腿部から挿入されたカテーテルと呼ばれる細い管を用いて治療を行います(図1)。脳の血管に留置されたカテーテルから様々な治療機器を挿入し、薬剤を注入することで、脳の血管に対する治療を行うことが可能です。

図1:大腿動脈から挿入されたカテーテルが脳の血管に誘導されているところです 。

写真:大腿動脈から挿入されたカテーテルの様子

脳血管内治療の対象

主に以下の疾患が脳血管内治療の対象となります。

  • 急性期脳梗塞(急性脳血管閉塞症)
  • 脳動脈瘤
  • 頚部頚動脈狭窄症
  • 硬膜動静脈瘻・脳動静脈奇形
  • 良性脳腫瘍 

急性脳梗塞(急性脳血管閉塞症)

2015年以降、急性期脳梗塞に対する血栓回収療法が注目されています。
現在のところ、発症から4.5時間以内の脳梗塞については血栓溶解薬であるtPA(ティーピーエー)の静脈注射療法が広く行われています。しかし脳の大きな血管が閉塞した場合、tPAを含めた薬物療法だけでは十分な治療効果が得られない場合があります。
血栓回収療法は発症から6時間以内の脳の大きな血管の閉塞に対して行う治療法です。ステントリトリーバーや吸引カテーテルといった機材を利用し閉塞した血管を再開通させることが可能です(図2、3)。十分な再開通が得られた場合、脳梗塞による症状がなくなったり後遺症が軽く済んだりする可能性が高くなるとされています。

図2:ステントリトリーバー

写真:ステントリトリーバー

図3:ステントリトリーバーによる血栓回収

写真:血栓回収の様子1
左中大脳動脈閉塞
写真:血栓回収の様子2
ステントリトリーバーを展開
写真:血栓回収の様子3
再開通

最近では血栓回収療法の適応が拡大されています。発症から24時間以内の症例についても可能であれば血栓回収療法を行うことが推奨されています。
発症から再開通までの時間が短いほど症状が軽くすむことが知られているため、当院では、血栓回収療法の適応となる患者さんが搬送された場合、可能な限り迅速に対応し血栓回収療法を行うように心がけています。

脳動脈瘤

未破裂脳動脈瘤

脳の動脈にできた小さな風船のような瘤で脳動脈瘤(どうみゃくりゅう)といいます。脳動脈瘤ができる原因は不明な部分が多いですが、高血圧や喫煙、遺伝などが関係するといわれています。未破裂脳動脈瘤は成人の100人に数人に動脈瘤が発見され、脳ドックやたまたま受けた頭部MRI検査などで偶然みつかる場合がほとんどです。

未破裂脳動脈瘤の症状

基本的に症状はありません。しかし、動脈瘤の部位や大きさによっては、脳の神経が圧迫されものが二重に見えたりまぶたが上がらなくなったりすることがあります。

未破裂脳動脈瘤の自然経過

未破裂脳動脈瘤を放置するとくも膜下出血をきたすことがあります。一般的に未破裂脳動脈瘤の破裂率は年間数パーセントといわれています。しかし、形が大きいもの、形がいびつなもの、徐々に大きくなってくるもの、動脈瘤が複数ある場合などは破裂の危険性が高くなるといわれており、患者様と相談のうえ、破裂する前に治療を行うことがあります。

未破裂脳動脈瘤の血管内治療

脳動脈瘤に対しては以前から開頭クリッピング術が行われています。一方で脳動脈瘤に対する血管内治療はここ10年来発展してきた比較的新しい治療法です。動脈瘤の中にカテーテルを留置しプラチナ製のコイルを動脈瘤内に充填し動脈瘤を閉塞させます(コイル塞栓術:図4)。動脈瘤の状態によっては風船付きのカテーテル(バルーンカテーテル)や金属の筒(ステント)を併用し動脈瘤を塞栓することもあります(図5)。
開頭クリッピング術と比較して、切らずに済む手術ですので患者さんへの負担が少なくて済む利点があります。一方で、血栓を予防するため血液が凝固しにくくなる薬剤を一定期間服用してもらう必要があったり、開頭クリッピング術と比較して再治療が必要になる割合が高いといった欠点もあります。
当院では、動脈瘤の位置、サイズ、患者さんの全身状態などを検討し、開頭クリッピング術が困難な場合にこの方法を用いて治療を行っています。

図4:プラチナコイルによるコイル塞栓術

写真:プラチナコイル
レントゲン写真:コイル塞栓術の様子
プラチナコイルで動脈瘤が塞栓されています。

図5:バルーンカテーテルやステントを併用した塞栓術

写真:バルーンカテーテル
バルーンカテーテルを併用した塞栓術
写真:ステント
ステントを併用した塞栓術

関連記事:未破裂脳動脈瘤

破裂脳動脈瘤(くも膜下出血)

脳は外側から硬膜(こうまく)、くも膜、軟膜(なんまく)で覆われており、脳動脈はくも膜と軟膜の間に存在します。このため動脈瘤が破れるとくも膜と軟膜の間に出血が起こり、この状態をくも膜下出血と呼びます。一般的に、死亡率が高いうえ救命できても重い後遺症を残すことがある恐ろしい病気です。

破裂脳動脈瘤の症状
  • 「頭をバットで殴られたような」突然の激しい頭痛
  • 意識がもうろうとする、意識を失う
  • 嘔吐する
  • 手足が麻痺したり、物が二重に見えたりする
破裂脳動脈瘤に対する血管内治療について

破裂した脳動脈瘤の治療は動脈瘤からの出血を止めることが第一です。破裂脳動脈瘤に対するコイル塞栓術の方法そのものは、未破裂脳動脈瘤に対するコイル塞栓術と基本的に同じです。当院では開頭クリッピング術が可能な場合はこれを優先し、患者様の状況に応じてコイル塞栓術を選択するようにしています(図6)。

図6:くも膜下出血の血管内治療

治療前

CT写真:クモ膜下出血の様子
くも膜下出血の頭部CT
レントゲン写真:脳動脈瘤のある脳血管の様子
脳血管撮影(脳動脈瘤)

治療後

レントゲン写真:塞栓術後の様子
動脈瘤の塞栓術後

くも膜下出血は発症後2週間以内は全身状態が不安定な時期が続きます。これは脳内の血管がれん縮(縮んでしまい細くなってしまうこと)をきたし脳梗塞になりやすくなるためです。開頭術やコイル塞栓術で出血を止めても脳血管のれん縮のため重篤な状態になってしまう場合があります。薬物療法で対応するのが一般的ですが、場合によっては脳の血管にカテーテルを誘導し、血管を拡張する薬剤を注入したり、バルーンカテーテルで細くなった血管を拡張させることもあります。

関連記事:くも膜下出血(破裂脳動脈瘤)

頸部頸動脈狭窄症に対する脳血管内治療

頸部頸動脈狭窄症とは?

首にある頸動脈という太い血管が狭くなる病気です。頸動脈は顔面の皮膚や筋肉、頭部の皮膚や筋肉に血流を送っている外頸動脈と、脳や眼球に血流を送っている内頸動脈に分かれますが、頸部頸動脈狭窄症はこの内頸動脈の根元が狭くなり血液の流れが悪くなり脳梗塞の原因となる病気です(図7)。塩分、脂分、糖分などの摂り過ぎが原因で起こる生活習慣病が基礎にあることが多く、日本人の食生活の内容が欧米化するにしたがい徐々に増加傾向を示しています。

図7:頸部頸動脈狭窄症(内頚動脈の起始部に高度狭窄が存在)

レントゲン写真:頸部頸動脈狭窄症

頸部頸動脈狭窄症の症状

少し狭いだけでは症状はありませんが、狭さ(狭窄率といいます)が強くなってくると脳梗塞を発症する原因となり、言語障害、手足の麻痺、視力障害などが起こることがあります。

頸部頸動脈狭窄症に対する血管内治療(頸動脈ステント留置術)について

頸部頸動脈狭窄症に対する治療は、全身麻酔のもと頸部の皮膚を切開し、狭くなっている頸動脈も切開した上で狭窄の原因となっている病変を切除するという頸動脈血栓内膜剥離術が第一に考慮されるべき治療方法です。頸動脈血栓内膜剥離術の歴史は長く、その効果が科学的に認められている治療法であり、当院でも本疾患に対しては可能な限り頸動脈血栓内膜剥離術を推奨しています。しかし、なんらかの理由で全身麻酔が困難であったり、頸動脈血栓内膜剥離術そのものが困難である場合、カテーテルを用いた頸動脈ステント留置術を考慮します。これはカテーテルを使って狭くなっている頸動脈を血管の内部から広げるという治療法です。風船付きのカテーテル(バルーンカテーテルといいます)を用いて狭くなっている部分を広げたのち、広がったところにステントと呼ばれる編み目構造になった金属の筒を留置します(図8)。局所麻酔で施行でき、傷が少ない(太ももの付け根に3ミリメートル程度です)のが利点ですが、2009年4月から正式に始まった治療法であり長期的な効果がまだ十分明らかになっていないのが欠点です。当院では、頸動脈血栓内膜剥離術の適応も含めこれらの利点と欠点を十分考慮し、患者様に最適な治療方法を選択しています。

図8:頚動脈ステントによる頚部頚動脈狭窄症の血管内治療

写真:頸動脈ステントと血管内治療
イラスト:頸動脈ステント

金属の筒を狭窄部に留置し狭くなった血管を拡張させます。

硬膜動静脈瘻・脳動静脈奇形に対する脳血管内治療

硬膜動静脈瘻、脳動静脈奇形とは?

硬膜動静脈瘻(こうまくどうじょうみゃくろう)、脳動静脈奇形(のうどうじょうみゃくきけい)は、脳の動脈と静脈の形の異常により起こる稀な病気です。通常とは異なる血液の流れができてしまうことで、脳出血の原因となったりけいれん発作や耳鳴りの原因となることもある病気です。脳動静脈奇形は先天的な異常であることが知られていますが、硬膜動静脈瘻の原因は不明な部分が多く、いずれも出血を起こす危険性は年間1.5から8パーセントといわれています。

硬膜動静脈瘻、脳動静脈奇形の症状

出血を起こすと激しい頭痛や嘔吐、手足の麻痺や感覚の異常、言語障害や意識障害などが起こります。出血しない場合でも、けいれん発作や耳鳴り、目の充血などの原因となる場合があります。何も症状がなく、頭部MRIなどの検査でたまたま発見されることもあります。

硬膜動静脈瘻、脳動静脈奇形に対する血管内治療について

いずれの病気も血管の異常が頭の中のどの場所にできたかによって治療法が大きく異なります。頭の皮膚や骨を切って行う開頭手術が適していたり、切らずに行う放射線治療(ガンマナイフ)が適していたりする場合があります。血管内治療もそれらの治療法のうちの一つであり、血管異常の場所、大きさ、形などにより治療方法を選択しています。カテーテルという細い管を用いた血管内治療は一般的に患者様への負担が少ない治療法ですが、血管内治療が危険な場合もあり十分な検査を行った上で適応を判断しています。また、これらの病気は治療の必要がない場合もありますので、発見された場合はまずは十分な検査をされることをおすすめします。

良性脳腫瘍

主に髄膜腫(ずいまくしゅ)に対する開頭摘出術前の処置として行います。髄膜腫は血流の豊富な腫瘍であり、開頭摘出術に際し術中の出血が大きな問題になります。大きな髄膜腫の摘出手術では大量出血のため輸血が必要になることもあります。そこで、開頭手術の際の出血を最小限に抑える目的で、開頭摘出術前に腫瘍に血液を送っている血管(腫瘍栄養血管といいます)をカテーテルを用いて閉塞させることがあります。この方法は摘出術前の補助的な治療であり、血管内治療のみで髄膜腫を根治させることはできません。

図9:髄膜種の腫瘍栄養血管塞栓術

写真:腫瘍栄養血管塞栓術1
なるべく腫瘍の近くまでカテーテルを誘導し粒子状塞栓物質を注入した。
写真:腫瘍栄養血管塞栓術2
塞栓術後は腫瘍血管の描出はなくなった

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