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脳血管奇形(脳動静脈奇形、海綿状血管腫)

脳動静脈奇形(のうどうじょうみゃくきけい:AVMとよばれる)

人間の身体の血液の流れは、心臓から送りだされた血液が動脈を通って運ばれます。動脈は細かく枝分かれして毛細血管となり、ここで組織に栄養を与えたり、酸素と二酸化炭素の交換をした後、再び集まって静脈となり心臓へと還流していきます。動静脈奇形とは、胎生早期に発生する先天異常で、脳の動脈と静脈の間にナイダスとよばれる異常な血管の塊ができ、毛細血管を通らずに脳の動脈の血液が脳の静脈に直接流れ込む病気です。動脈瘤を合併する場合もあります。このため、高い動脈の圧力がナイダスや静脈に直接かかることになるため破裂しやすく、破裂すると脳内出血やくも膜下出血を起こします。また、てんかん発作の原因となることもあります。

発生頻度は年間10万人に1人(脳動脈瘤の10分の1程度)ですが、20才までの若年者では多い病気です。破裂は20から40才台に多く、80パーセントが大脳にできます。症状は脳出血や大きなナイダスに血液が盗られること(脳内盗血といいます)による頭痛や意識障害、嘔吐、麻痺などの局所症状を起こすほか、けいれんが起こる場合もあります。

再出血の可能性は出血の場合は、1年間は約6パーセント、その後は年間2から3パーセントと言われます。出血がこれまで無い場合でも年間2から3パーセントの確率で破裂すると言われます。破裂した場合には初回出血で死亡率は10パーセントであり、後遺症を残す可能性は30パーセントと言われています。小さい脳動静脈奇形、静脈への流れが悪い脳動静脈奇形は出血しやすいことが知られています。現在出血の既往のない脳動静脈奇形を追跡した調査が行われており、偶然にこの病気が発見された場合にどう対処すればいいかは今後より明らかになってくるでしょう。

細かい血管網が脳動静脈奇形のナイダスです。そこから出ている太い血管は、動脈の圧力がかかって太く拡張した流出静脈です。

治療

脳動静脈奇形の治療法としては、開頭手術、放射線治療、血管内治療(塞栓術)があります。開頭手術は最も根治性の高い治療ですが、脳動静脈奇形の場所によっては、手術では安全に摘出できない場合もあります。そこで放射線治療や血管内治療が併せて行われる場合も多くあります。放射線治療は、非侵襲的に根治の望める治療ですが、大きいものになると根治が難しくなります。また、効果が現われるまでに時間を要することも欠点で、一般に2年程度かかるとされており、その間は出血の危険性がなくならないことも欠点です。血管内治療単独での根治はあまり期待できませんが、開頭手術や放射線治療の前処置としてこれらの欠点を補うように行われます。

脳動静脈奇形のナイダスの出口には動脈の色をした赤く怒張した静脈があります。動脈瘤を合併したり、そこが破裂して出血源になっていることもあります。摘出した組織を顕微鏡で見ると、ナイダス内は大小さまざまな血管が入りみだれていて、そのすき間には正常な脳組織は存在しません。

なお2005年から2010年に脳研センターでAVM(いずれも出血例)で摘出手術を受けた患者さんは17例ですが、手術合併症は0例、死亡 0例でした。出血を起こした場所と程度によって後遺障害が決まってしまいます。

海綿状血管腫(かいめんじょうけっかんしゅ)

発生頻度は人口の0.5から0.7パーセントに見られ、脳動静脈奇形についで多い血管奇形です。男女差はなく、20から40歳代に発症することが多い病気です。その多くが脳MRI検査などで偶然に発見される単発で無症状なものですが、家族に遺伝する多発性のタイプも20パーセントに認められます。

60パーセントが大脳にできます。海綿状血管腫は内部で出血を繰り返したりして徐々に大きくなる場合があり、症状は無症状の場合から、頭痛、けいれん、脳出血よる脳の局所症状を呈するものまでさまざまです。

再出血の可能性は出血の場合は、1年間は約2パーセント、その後は1パーセント以下と言われます。出血がこれまで無い場合でも年間0.2から0.4パーセントの確率で出血すると言われます。大抵の場合は出血があっても無症状ですが、約10パーセントで出血により何らかの神経症状が出現することが言われています。出血の既往、女性、深部にある病変、小脳や脳幹部の病変、家族形、若年者、妊娠患者では出血しやすいことが知られています。血管腫の大きさと出血しやすさとの関係はないことが知られています。

海綿状血管腫の脳MRI画像です。桑の実によく似た多房性の形をしています。

治療

血管腫は桑の実のような暗赤紫色の外観をしており、脳動静脈奇形のナイダスのような異常血管網の発達はありません。そのため、抗けいれん薬の内服で治療困難な難治性てんかんを症状とする場合や、進行性に増大したり、何度も出血を繰り返したりする場合、手術により摘出を行います。脳深部にあったり、重要な構造物の中にあったりなど、海綿状血管腫の場所によっては、手術では安全に摘出できないこともあります。そこで放射線治療が行われる場合もあります。

脳幹といわれる脳の深い場所から海綿状血管腫を摘出しています。

腫瘍内部には大小の静脈血管組織がたくさん集まっていて、出血しやすくなっています。
なお2004年から2010年に当センターでは海綿状血管腫(いずれも出血例)で摘出手術を受けた患者さんは10例ですが、手術合併症は0例、死亡 0例でした。

武藤達士, 石川達哉. 出血性脳血管障害の初期治療. 99(1): 107-115, 2011. より一部抜粋。

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